アーモンドの花を探しに

アムステルダムに住んでいたのら博士(理学)のMooiが好きなことやひとりごとを書いてます。2020年4月に国家資格キャリアコンサルタントを取得し、お役に立ちたいと考え中。

Lee Kit「僕らはもっと繊細だった。」原美術館

今日から原美術館で開催された、香港出身で、現在は台湾在住のアーティストLee Kitの僕らはもっと繊細だった。を観に行った。
コンテンポラリーアートは理解しづらいので、Leeさんのトークイベントを予約し、ご本人の言葉を聞いてみたいと思った。

 

Leeさんが白ワイン好きということで、ワインを飲みながら、トークされることに!

 

1978年香港生まれのLeeさんは、私と年代が同じ。
高校生くらいの頃(1997年)、香港が、イギリスから中国に返還されたと思うので、大きな衝撃を受けたのでは?と想像して参加した。日本にいる私ですら、旧ソ連崩壊、ベルリンの壁崩壊と並んで、世界的な、大きな出来事だったのだから。

展覧会10日前から初日の11時(開館時間!)まで展示準備をされていたLeeさん。
その後もずっと美術館敷地内にいらしたそうで、「新鮮な体験だった」らしい。

1階の広い部屋の柱が気になったので、柱が見えないよう、壁を作り、空間を仕切ったそうで、これがかえって、中の作品に奥行きを作ってる気がした。

今までも、東京では、資生堂などのギャラリーに作品を展示したことがあったが、原美術館では、時間によって光の入り方が違ったので、光の入り方を見るため、館内を歩き回っていたとのこと。

その結果、一番シンプルな方法での展示に至ったそうで、この空間では、ソフトな雰囲気の出る「低画質」の映像を使用し、原美術館の光と合うよう、調整したそう。

音響については、天井が低く、木の床であるため、エコーや他の音が入りやすいと気づき、音のない映像を選択した。プロジェクター、エアコン、扇風機(2階展示室)等の生活音もすでに作品の一部、part of thingsととらえている、とのこと。

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柱の存在がじゃまだったので隠すために仮の壁を作り、奥に空間を設けている



「東京では、良いとか悪いとかの意味ではなく、孤独を感じる。でも、東京にはマナーがある」とおっしゃっていたけど、他の言葉からも、善と悪、二者択一ではなく、様々な考え方、方法があることを示唆する発言が多かった。

香港人ならではの、本国への怒りもあるが、そこで怒らず、中道というか、多様性を認めたいと言う気持ちもあるのかもしれない。光の当て方にもそのような気持ちが現れてるように感じた。

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プロジェクターの光を直接ではなく、プラスチックの衣装ケースを通し、柔らかくして、作品に照らす



「学生時代から、作品にスポットライトを当てるのが好きではなかったので、教授には、プロになるにはライトが必要と言われ、納得がいかず、プロジェクターを使うことにした。プロジェクターでの投影では、光の当たらない部分があるところが好き。全てに光が当たることがない。」

サブタイトルの”We used to be more sensitive”については、
「僕らはもっと繊細だった。」と言う言葉からは想像できないと思うけど、

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”Now we are too sensitive” 
例えば、トランプ大統領が嫌いと言うとアメリカが嫌いと言うように拡大解釈されてしまう、sensitiveすぎて、過激な解釈と言う発言をされており、
右か左かに真っ二つに分かれている国際情勢への懸念も感じた。
言葉を大切にし、映像には短いメッセージに絞って曖昧にしている点は、相手に考えさせると言う意味で、少しフランス映画にも近いかな、と感じたり。
終始、穏やかな表情で、時にはジョークを交えたLeeさんのトークイベントだったが、最後に、会場2階にあるマグカップに触れていた。

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「僕はスーパーネガティヴ」と言っていたけど、"Full of Joy"と記されたマグカップを置いており、ミュージアムショップでも販売している点に、今回の展示のヒントがあるような気が。解決できないことへの希望を示しているのか、実は楽観的なのか。悲観主義者こそ、新しい楽観主義を生む、と言う話も少し出ていたので、Leeさんは悲観主義でも楽観主義でもなく、自然に存在しているのだろう。

展覧会では、返還前の香港の寛容性と中国返還による制約の戸惑いを、台湾から客観的に捉えようとする姿が投影されてるような気もした。
作品自体は、とても穏やかな風景を描いているようで、お昼頃に観た時と、トークイベント後の夕方に観た時では全く印象が違ったので、長い時間かけて、鑑賞してほしい。

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