大倉集古館リニューアル記念特別展
「桃源郷展ー蕪村・呉春が夢みたものー」のブロガー内覧会に参加してきました。
グランドオープン前に来館させていただいた上、テレビでも拝見していた学芸部顧問の安村敏信先生、そして、今回の展覧会の企画をされた田中知佐子主任学芸員に案内していただきました。本当に贅沢な時間を過ごさせていただいたので、こちらの記事でみなさんにシェアさせていただきます!
▼安村敏信先生ですが、現在も北斎館の館長をされてますので、ご安心を。萬美術屋さんとしてのご活動も継続中だそうです。
*写真は許可を得て、特別に撮影させていただいております。
会期:2019年9月12日(木)~11月17日(日) ※期間中展示替あり。
開館時間:10:00~17:00(入館は16:30まで)
休館日:毎週月曜日(月曜祝日は開館し、翌火曜日は休館)、9/17、9/24、9/30、10/7、10/5、10/21、10/28、11/5、11/11休館
入館料:一般1300円/大学生・高校生1000円/中学生以下無料
まず、建物がすごい。
大倉集古館ですが、明治時代〜大正時代の実業家・大倉喜八郎が創設した、日本で最初の私立美術館だそうです。
喜八郎が蒐集した東洋・日本の美術品に、嫡子である喜七郎が蒐集した日本近代絵画などを合わせたコレクションとなっています。なんと、国宝が3点も!今回の展覧会では、そのうち2点をみることができますよ〜。
しかし、この大倉集古館、1923年の関東大震災で、建物の4分の3が焼失してしまい、当時の展示物も焼失してしまったそうです(松方コレクションや原三渓の夢見た美術館など、関東大震災の影響を受けたコレクションが多いので、災害と美術品の関係について考える年になっています。)。その後、伊東忠太博士が設計したのが、今の建物だそうです。平安神宮や築地本願寺、東大正門(赤門ではない)も、この方の設計なんですね!伊東忠太博士が、出身地の山形県の妖怪からインスピレーションを受けて導入しているという、動物モチーフも見どころのようです。
そんな大倉集古館ですが、今回のリニューアルでは、大改造されているんです。そのコンセプトは2つあるそうで、
1.この地域のランドマークに!
ホテルと水場が設置され、開放感あふれる空間になっていました。確かに、以前は、他の建物に隠れてて、「知る人と知る」みたいな美術館だった記憶が。収蔵庫は地下に作られたそうで、そのために、建物を曳屋(ひきや)という建築工法でスライド移動させたそうです。
この建築工法の様子は、地下の映像コーナーでご覧になれるので、ぜひ!
2.地震対策されているので、免震台不要!?
建物自体が免震台に乗っているような作りになったそうで、なんと!磁器等も免震台に載せる必要がないそうです。テグスで固定しているそうですが、それ以外は何もされてないそうです。
▼虎ノ門とは思えない光景。「中国にいます」と書いて、インスタに載せたら、信じてしまう人も出そうなほど。
▼2階の龍のモチーフが、豪華なだけなく、収蔵品を守ってくれてる感じがしました。
▼柱にも何か謎の動物がいますね。妖怪?
大倉集古館さんのサイトに、建物について、もっと詳しい情報が、丁寧に綴られているので、一読されてから向かうとさらに楽しく鑑賞できるのではないかと思います。
桃源郷展ー蕪村・呉春が夢みたものー(2階展示室)
2階の展示室は、3章に分かれています。
第一章 呉春《武陵桃源図屏風》―蕪村へのオマージュ―
第二章 桃の意味するもの―不老長寿・吉祥―
第三章 「武陵桃源図」の展開―中国から日本へ―
リニューアルにあたり、おめでたいものが良いだろう、ということで、桃源郷展にしたそうです。そのために、なんと、10.呉春筆《武陵桃源図屏風》を購入され、今回が初公開となります。こちらの屏風、長い間、アメリカのキミコ&ジョン・パワーズ・コレクションとして収蔵されていたものが、数十年ぶりに日本に里帰りした作品だそうです。
▼2階の作品はほとんどが他からお借りしてるものだそうで、大倉集古館所蔵の呉春筆《武陵桃源図屏風》を撮影させていただきました。写真だと屏風の良さが全く伝わりませんね(汗)。拡大してもよくわかりませんよね?ぜひ、実物をご覧ください。
▼個人的にキミコさんが気になったので、検索したところ、2013年の「ポップ・アート」展開催時に贈られた動画を発見しました。エネルギッシュな雰囲気の方ですね。
話は逸れましたが、安村先生のお話によると、呉春と師匠の蕪村の展覧会というのは、東京ではほとんど開催されたことがないそうです。関西では人気があるそうで、今でも関東と関西では文化の違いがあるんだなぁ、と思い、面白く感じました(元・関西住民なので、頷いてしまった)。
今回の展覧会のテーマである桃源郷の元図は中国ですが、桃源郷=理想郷(ユートピア)ではない、とのことです!これには少々、驚きました。私は長年、全くの勘違いをしていました。
そして、この桃ですが、中国では、吉祥モチーフ(おめでたいモチーフ)のひとつで、縁起が良いそうです。今回の展覧会でも、フライヤーや入場券に桃が使われていて、運気が上がりそうです!
▼この入場券、かわいいので、しおりとして使っています(大きめなので、単行本以上の大きさにおすすめ)。
第一章から第三章まで、桃づくし。
第一章では中国絵画に出てくる桃源郷、そして、それらからインスピレーションを受けた日本の桃源郷絵画を紹介しています。こんなに桃の絵画を見たのは初めてでした。
桃源郷の元になった詩は、中国の陶淵明の『桃花源記』。今では、高校の古典の教科書にも掲載されているようなので、高校生のお子さんがいらっしゃる方は一緒にお越しになると、お子さんに説明してもらえるかも?
2階の展示室に移動し、最初に目に入るのは、1.与謝蕪村《桃林結義図》です。三国志でおなじみ、関羽、張飛、劉備の3人が桃の木の下に集合して宴会をしています。これは、「桃園の誓いと呼ばれる義兄弟の誓い、つまり、生死を共にする誓いをしているところだそうです。 東京国立博物館でも特別展「三国志」が開催されているので、大倉集古館とはしごすると、より三国志への理解が深まるかもしれません。
2~4まで、与謝蕪村の《武陵桃源図》が続くのですが、 3.与謝蕪村《武陵桃源図》へ。陶淵明の詩からインスピレーションされて書かれた「入桃花源詩」という詩が書かれています。避難した人たちが隠れて住んでいただけの桃源郷から神仙郷としての桃源郷に変わっていき、このように人々が桃の木の下で楽しそうに会話している絵になったようです。幅巾の老人がいますが、この人物が中国・六朝時代の詩人である陶淵明だと言われています。そんな陶淵明に、師匠の与謝蕪村を重ねて呉春が描いたと思われる絵が、9.与謝蕪村・呉春《陶淵明画讃》です。図録を読んで知ったのですが、与謝蕪村が亡くなる際、娘さんや遺族のことを託していたそうです。その気持ちを汲み取った呉春をはじめとする弟子たちは、蕪村の作品(句など)の一部に証明書を付け、蕪村の娘さんの嫁入り支度金に充てたそうです。良い話ですね。
でも、この蕪村をモデルにしたと言われる《陶淵明画讃》の陶淵明、不謹慎ですが、少し笑ってしまいました。
▼幅巾の老人がたくさん出てきますが、どれも陶淵明と言われています。真ん中が与謝蕪村をモデルにして描かれたと言われる陶淵明です。
一方で、呉春も《武陵桃源図》を描いています(8)。師匠の蕪村の原図をもとに描いてるそうですが、残念ながら原図は存在していないそうです。そして、桃源郷展の目玉である、最初に紹介した10.呉春筆《武陵桃源図屏風》では、呉春の個性が出ているようです。左隻に出てくる長い帽子のおじいさんは蕪村かも?とか、陶淵明でありながら、蕪村のイメージなので、色んな人に相談されてる構図になっているのも面白いのだとか。また左隻には、掃除をしているおじいさんが!寒山拾得という説が!
一方、右隻の若い漁夫は呉春では?との説も。実際に、呉春が35〜36歳くらいの時の作品なので、つじつまが合うそうです。
でも、この作品の後、呉春は一転、応挙風の作風に変化していくそうです。この屏風を描いて、「師匠である蕪村への強い思いに区切りをつけて、自分なりの新しいアイデンティティーを築いていったのでは?」という田中主任学芸員さんの説につながっていきます(図録に掲載の論文参照)。
▼斬新なポスターで話題の逸翁美術館の画家「呉春」展も一緒に巡ると、呉春の心境の変化を辿れて、楽しいかも。秋の関西旅行の際にいかがでしょう。
また、第二章では、桃の意味するものとして、本場である中国の清時代の桃の絵や明や清時代に制作された桃柄の陶器や盆が展示されています。
長寿を願って描かれたという「黄金の桃」を探してみてください!見ているだけで、なんとなく、縁起が良い感じがしてきました。
第三章では、「武陵桃源図」の展開ー中国から日本へーと題して、優れた作品の多い南宋時代の趙伯駒《武陵桃源図巻》から始まり、日本の江戸時代の谷文晁《武陵桃源図》、そして、 明治時代に複数の分野で活躍した文人である富岡鉄斎《武陵桃源図》で締めくくり、中国から日本に渡り、どのように変化していったのかを、一気に感じられます。
▼光明寺蔵のようですが、新見美術館の収蔵品として掲載されてました。中国の武陵桃源図より、雰囲気が優しい気がしました。
桃花源記といえば、この動物
「鶏犬相聞」という記述があり、「武陵桃花図」にはよく鶏と犬が描かれてるそうです。平和の世界の象徴としての鶏と犬。ぜひ探してみてください。他の動物がいることもありますよ〜。
リニューアルオープン記念オークラウロコンサート
2019年9月12日(木)14時開演
入場料無料(大倉集古館入場券は必要)
オークラウロという楽器ですが、1935年に2代目の大倉喜七郎さんが自ら考案・制作した尺八とフルートを合体させた「大倉式尺八」のことだそうです。今も根強い人気があるそうで、CDも発売されていました。
大正琴のような和洋折衷のイメージかな?と思い、検索したところ、演奏者のYou tubeを拝見しましたが、西洋楽器より、音がまろやかな気がしました(*個人の感想)。食後に聴いたら、心地よくて眠ってしまいそう。
オーロラウロについて、もっと知りたい方は、ぜひ大倉集古館さんのサイトをご覧になってくださいね。
あ〜ととらいあんぐるスタンプラリーに注目(2019年10月27日まで)
泉屋博古館分館とコラボすればいいのに、という浅はかな素人の考えなど、とっくに読まれており、大倉集古館、泉屋博古館分館、菊池寛記念 智美術館の3館であ〜ととらいあんぐるスタンプラリーを開催されてます!記念品は先着200名までなので、急ぎましょう〜。
長くなってしまったので、1階展示室については、次の記事で紹介します!