新型コロナウイルスの流行後、海外からの作品の輸送が難しくなり、延期や中止される展覧会が相次いでいます。
そんな現代の荒波を乗り越えて、ロンドンのテート美術館からコンスタブルや周辺画家の作品が来日しています
追記:大変残念ながら、会期途中に緊急事態宣言下となり、2021年5月26日(水)に、「閉幕」のお知らせが発出されました。
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テート美術館が監修しての展示、ということで、日本にいながらテーと美術館を体感できる機会とも言えます。
日本では伊勢丹美術館以来、実に35年ぶりとなるコンスタブルの大回顧展!
私自身はコンスタブルに関する知識がほとんどなく、こちらの展覧会を通じて、興味を深めることができました。
コンスタブルを知らない方でも、彼の人生を追っていけるような、親切でわかりやすい解説が、そこかしこに散りばめられている展覧会です。
*許可を得て撮影させていただいております。
3月下旬のブロガー内覧会が行われた日は、コブシの花が満開でした。桜はもちろんですが、ハナニラ、スミレなどの花も咲いています。
これからはバラの季節ですね。
春雨にも強い、東京駅直結で向かえる三菱一号館美術館!
最近は「春雨じゃ、濡れて参ろう。」なんて優雅なことを言えないほど、局地的な大雨が多いですね。
そんな日はついつい、美術館へ向かうのも躊躇してしまいますが、三菱一号館美術館なら大丈夫。
東京駅南口から地下で直結しているので、傘をささずに濡れずに向かえるのです!
こちらの三菱一号館美術館公式サイトのアクセスマップにも、地下からのアクセスが掲載されています。
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概要
会期:2021年2月20日(土)~5月30日(日)
開館時間:10:00〜18:00 ※入館は閉館の30分前まで
休館日:月曜日 ※但し、祝日・振替休日の場合、 会期最終週と2月22日、3月29日、4月26日は開館
構成
1.イースト・バーゴルドのコンスタブル家
2.自然にもとづく絵画制作
- ロイヤルアカデミーでの成功
4.ブライトンとソールズベリー
- 後期のピクチャレスクな風景がと没後の名声
コンスタブルの故郷イーストバーゴルド
ジョン・コンスタブル(John Constable 1776−1837)は、イギリスのイングランド東部に位置するサフォーク州イースト・バーゴルト生まれ。
父親が製粉所を営んでいたそうです。イースト・バーゴールドののどかな風景を描いた初期作品は、小さくても、コンスタブルのその後の活躍を感じさせるような、つい見てしまう作品が多かったです。
左:《イースト・バーゴールド・ハウス》(1809年頃)、右:コンスタブルの母《アン・コンスタブル》(1800-05年頃か1815年頃)
コンスタブルは結婚前から奥様にぞっこんだったようで、 家柄の違いで結婚に反対されていた時期は、《マライア・ビックネル、ジョンコンスタブル夫人》(1816)
を見て、心を慰めていたようで、この絵だけは一生手放さないと決めていたようです。
左:ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー《ペンブローグ城》(1798年)、右:《テムズ川とアイズワースの船着き場》
私が1999年に初めて海外旅行をした際に訪れたのがイギリスで、何の前知識もなく訪れたテート美術館で驚いたのがターナーの作品数。
何も知らない状況でも「どうやらこのひとがイギリスでは人気の画家らしい(失礼な学生だったわ。)。」とわかるほどでした。
写真に撮ってもピンボケしているように見える、水分含量が高いターナーの作品。学生時代に見た時と同じ印象を受けました。
ターナーは夏目漱石の『坊っちゃん』で紹介されて日本でも有名になったのだとか。
習作と実際の作品が展示されているので、コンスタブルが風景画を描く時の構想を感じることができます。
夜でも明るいのが英国らしい
夏の夕暮れは感傷的 彼らにとっての夏の夕暮れがこれなんですね。
ニコニコ美術館の石原良純さんのコメントより
左:《「フラットフォードの製粉所」の習作》と右《フラットフォードの近くの小道》(1810-1811年頃)
《フラットフォードの製粉所(航行可能な川の情景)》(1816-1817年)
そして、ロイヤル・アカデミーでの成功へ。
1816年末に結婚したコンスタブルは、ロンドンでの家庭生活を維持するために、肖像画制作に励みます。とはいえ、風景画を最も重視する姿勢は変わらず、ロイヤル・アカデミー展でさらなる注目を集めようとして、より大判の、幅が約6フィート(約185㎝)あるカンヴァスにサフォークの風景を描き始めました。 この意欲あふれる試みによって、1819年、画家はロイヤル・アカデミーの准会員に選出されます。 評価を得て、例年の展覧会に向けて大型の風景画を制作する一方、家庭に馴染むような小型の絵画も好んで描きました。 コンスタブル展公式サイトより
会場では、展示会場の移動途中に「ロイヤル・アカデミー」についての解説パネルも展示しくれているので、「ロイヤル・アカデミーってなんだ?」っていう私でも大丈夫でした!アカデミーで成功後、大きな作品だけでなく、家庭でも飾れるような小さな作品も制作してくれていたんですね。少しコンスタブルが好きになってきました。
上手に写真が取れなかったので、《ヤーマスの桟橋》(1823年)を紹介しているサイトの絵を使用させていただきますが、こちらの絵に関する石原良純さんの解説が秀逸でした。さすが、石原家!海に詳しい!
[blogcard url="https://www.aflo.com/ja/contents/154858979"]
大陸の西側の海の方が楽。イギリスで、一年中、のんびりヨットで遊べるのは海が東側だから。
予想がつく海なんだよね。
逆なので、日本の海は難しい。湘南で冬に遊ぶなんて無理だから。
冬でも海で遊んでるのは、日本の海は難しいから。
ニコニコ美術館の石原良純さんのコメントより
そして、アカデミー成功後の展示会場でひときわ目を引くのが《雲の習作》(1822年)でした。解説を読むと、8月27日11時から正午までの1時間の雲の流れを描いた作品のようです。1時間分の雲の動きがこの一枚に!ずっと見ていると、絵の中の雲が動いているような錯覚にとらわれます。よく見ると、曇っているところでなく、明るいところもあります。
ミュージアムショップでマグカップとして販売されていますが、何度か売り切れになったのも納得。
ニコニコ美術館で石原良純さんが気象予報士としての視点から解説してくださったのも印象的でした。
ターナー対コンスタブルの部屋には風が吹いている!
二作品がそろうのは1832年の展示を除くと本展が3回目で、 ロンドン以外では初めての展示。
コンスタブル展公式サイトより引用
右:コンスタブル《ウォータールー橋の開通式(ホワイトホールの階段、1817年6月18日)》 左:ターナー《ヘレヴーツリュイスから出航するユトレヒトシティ64号》
コンスタブルとターナーは年齢では、ターナーが1歳上なんですね。ターナーがあまりにもイギリスを代表する画家のせいか、もっと年上かと思っていました。
私の中では勝手に日本画に置き換えて、ターナーは横山大観のような存在で、コンスタブルは少し穏やかな川合玉堂というイメージでした。
同じ部屋で最後の仕上げを行なっていたようで、ターナーが最後に《ヘレヴーツリュイスから出航するユトレヒトシティ64号》の真ん中付近に、赤いブイを描いて仕上げたそうです。
その時にコンスタブルは、殴られたような気がしたくらいの衝撃を受けたそうです(この部屋にある資料に、コンスタブルの気持ちを書いた資料が展示されています。)。 実際に見ると、コンスタブルの大きくて、少し歴史画風の絵も魅力的なのですが、海や空の描き方、色の抑えた感じのある、ターナーの方に軍配が上がるかな、という印象がしました。
コンスタブルがイギリスを代表する偉大な画家であることは、ディヴィット・ルーカスがメゾチントの版画として出版した本がベストセラーになったことからもわかります。
一点撮りの撮影が許可されている《虹がたつハムステッド・ヒース》があるので、スマホやカメラをご持参で
最後の展示会場には、撮影が許可されている作品があるので、スマホやカメラをお忘れなく!
また、この部屋には息子さんの作品も展示されていて、かつてはコンスタブル父の作品と間違われることも多かったそうです。
コンスタブルのお子さんは7人いますが、5人が絵を描かれていたそうで、お父さんの才能を受け継いでいたんですね。
《虹がたつハムステッド・ヒース》(1836年)
来館前にニコニコ美術館の石原良純さんの解説を見ると、コンスタブルの空がさらに楽しめる!事前に見て良かった。
三菱一号館美術館 企画展「コンスタブル展」を巡ろう / 出演: 荒川裕子 (法政大学教授)、石原良純 (気象予報士)《ニコニコ美術館》
石原良純さんは大学時代、美術史専攻、そして気象予報士でいらっしゃるので、歴史からも、気象学の面からもコンスタブルの絵を解析されているのですが、とても興味深くて、内覧会前日に視聴してから向かって、本当に良かったと思いました。
品切れ続出のコンスタブルの描いた空のマグカップ、そして、イギリスから届いたイギリス製品も
グッズを制作されてるEastさんのtweetや来館者の間で、品切れ続出が話題になっているコンスタブルの《雲の習作》をプリントしたマグカップ
おなじみのミニチュアキャンバス。種類も豊富なので、お気に入りが見つかるかも。
売り切れが予想されている図録。お早めに。
海外に行けない今、貴重なイギリスのジャムやお茶などが揃うミュージアムショップ。
現在、イギリスからの輸送も難しいそうで、その日によって、届いているイギリス製品も違うそうです。
イギリスと日本の空は繋がってる、だから大丈夫、と教えてくれるEastさんの企画
ミュージアムショップの片隅に、控え目に、ミュージアムグッズ制作会社Eastの開社長の企画が紹介されています。
私たちは、ふと見上げた空を簡単に撮ることができますが、当時はそういうわけにはいきません。流れていく雲をこれほどまで緻密に描写することができるなんて。そう思いながら、私たちは、あることに気付きました。それは、 「19世紀の英国の空と、今日の空は、つながっている」 ということ。 コンスタブルが描いていたサフォーク州の空と、今日現在のサフォーク州の空、そして、私たちが見上げることのできる今の空は、時間や国境を超えて、途切れることなく続いているんです!想像すると、ちょっとわくわくしてきませんか? Eastサイトより引用
Instagram(@jconstable_sky)より、日々の日本とイギリスの空の写真を見ることができます。空の空気感がかなり違うのですが、それでも繋がっているんですね。
今は行き来できなくても、空が繋がってるから、収束後は行き来できるはず。
コンスタブル展では、初めて知ることばかりで、内覧会参加に応募したものの、自分の言葉で何が書けるのか、正直不安でした。
でも、足を運ぶ前に三菱一号館のサイトを拝読したり、EastさんのTwitterやinstragramでグッズ情報や空の写真について知ったり、ニコニコ美術館で石原良純さんの解説を聞いて空に注目すると面白い見方ができることを知り、不安を払拭して、素直に作品を楽しむことができました。ターナーとの対決のみに絞った大胆な部屋では、絵の中の風が感じられるほどで、イギリス風景画の巨匠ふたりの競演に驚きました。
また、帰り際、ロッカーから荷物を取り出す際、三菱一号館美術館のスタッフの方がひとつひとつのロッカーを丁寧に消毒されてる姿に心を打たれました。
未だ治療薬は見つからず、ワクチン接種もいつになるかわからず、感染の不安を抱えながら美術館巡りをしている状況ですが、美術館の学芸員さんの企画力はもちろんですが、スタッフの皆さんの感染対策によって、安心して鑑賞できることに感謝します。